「おい、ちんたら歩いているなよ、ジョナサン。貴様に合わせていたら夜明けになりそうだ」
「うん、ごめんよ」
フンと鼻で笑ったディオはそれでも歩く速度を落としてくれたようだった。カッターの刃のように鋭い風は肌を擽る度に小さな傷をバラバラと付けていく。恐ろしいくらいに寒い冬の夜だ。数えられるほどしか見当たらない星々を眺めながら歩くぼくを叱咤する彼はとても品の良いコートと帽子を身に着けていた。それは彼の特注品で、市販のものでは追い付かない背丈だとかにぴったりと合う素晴らしい代物だ。深みのあるモスグリーンの裾が風に吹かれてはためいている。緩やかな上り坂は終わりが見えなかった。ずっと何年も前からこうして歩いているような気もした。
「何故だろう、こんなに歩いているのに全く辿り着く気がしないのは」
「そんなわけないだろう、馬鹿か貴様は」
「ただそんな気がするだけさ」
嘲笑混じりに答えられたってまるで怒る気にならないのは、彼がディオ・ブランドーであるからだろうか。常に他人を見下して生きている彼は(果たしてあれを生きている、と言っていいのかは定かではないけれど。そんなことを言えばぼくだって余程ヒドいなにかだ)何かとこういった態度を取るし、一々気にするほどもう子供でもなかった。第一にぼくらは長い間一緒にいすぎたんだ。それはとてつもなく長い間だった。考え得る全ての遊びをし尽くせるほど途方もなく長い時間。海の底はあの宇宙を思わせた。目の前をぼこぼこと上る泡は、あの頭上で輝く星々みたいで目が痛くなった。緩やかな上り坂、ディオはどんどんと先へ行く。先程よりも少しだけ遅くなった歩行速度、数えきれるほどの星たち。気が付くとぼくは立ち止まっていた。先を歩くディオが振り返って、そうして立ち止まる。ぼくは歩いていられなかった。いや、歩いたって無駄だった。ここに来てぼくたちは何が変わったのだろう?
「ディオ」
「なんだ、ジョジョ」
「きみって星みたいだ」
瞬く間にすべてが消え失せてしまいそうな夜だった。このままぼくらを、すっかりバラバラにしてしまえばいいんだ。あの深い深い海の底に沈んでいたぼくたちは、あのまま屑になるべきだった。ぼくと彼以外のなにもかもが無くなってしまった上り坂に立ち尽くす。


永遠にこんにちは









 

 

 

inserted by FC2 system