サニーイエローの丘は地獄のように太陽光線が降り注いでいた。絵の具を零したように青い空と、地面に齧りつくような黄色が相反している。額を汗が伝った。袖を捲り、汗を拭いながらも辺りを見渡せどまるで何も分かりはしない。自分の背丈にもなるその花々はすっかりあいつの姿を隠してしまう。限りのない向日葵畑。丘の上にぽつりと立つ木だけが遠近の目印だった。その他には、ほんとうに、何もなかった。
「おい、どこにいんだよ」
「こちらにいますよ」
「どこにいるか分かんねえよ」
「こちらに、います」
子供に言い聞かせるような優しげな声音はやや遠くから聞こえた。透明感のあるソプラノ。白い肌を思わせた。か細い喉が振動する様子が脳裏に焼き付いている。ガラス細工のように繊細で、凛とした佇まい。ジリジリと焦げるような日差しの下ではその華奢な体躯が僅かに心配になって名前を呼んだ。地球の裏側までこの青と黄色になってしまったようだった。ガサガサと向日葵を掻き分けながら、前へ進む。
「ジョルノ、あんまり遠くへ行くなよ」
「ええ、もちろん。ミスタ、あなたはあの木陰で休んでいたらどうでしょう。随分と日差しが強くなってきましたので」
「見失っちまうぜ、おまえの髪ってこの向日葵とまるで同じみてえだ」
「そんなのは簡単ですよ」
「簡単?」
「一番美しい花を見付ければ良いんですから」
天使のような声で告げられ、ポカンと口を開けたままでいると足音はどんどん遠ざかっていった。その言葉が決して間違いではないから、余計に質が悪い。ジョルノほど美しい外見を持った人間を見たことがなかった。男女問わずに、それはもうどの人間と比べたって群を抜いていた。天に選ばれたような黄金の髪と透き通る白い肌、そして汚れのない青い瞳、それを飾る睫までもが光を受けキラキラと輝いている。肉厚の唇はまるで女のようだとさえ思ったが、意志の強い眼光は決して強さを失うことがない。一切無駄な筋肉のない細身の体は均整がとれ、その外見を更に完璧なものへと変えていた。どんな女だって固唾をのむほどの美貌だ、本人だって自覚しないわけがない。適当に返事をして踵を返した。よくよく考えて見れば、余程のことがない限りはおれの助けを必要としない相手だ。
場違いのようにして立っている木を眺める。太陽の光を浴び輝くこの向日葵の群れの中で場違いな様子が、どうにもおかしかった。足早に歩き、その場所へと辿り着くと木に凭れ、ずるずると座り込んだ。近頃仕事が忙しかったからか、疲れの溜まった体はあっと言う間に睡魔を呼び寄せる。重みを増す瞼に抗うことが出来ず、眠気に身を委ねる。目を閉じる瞬間に垣間見えたのは、噎せ返るような向日葵のイエローが空を侵食する光景だった。



「お疲れですね」
びくりと肩を揺らして起きると、向日葵を束にして何本も抱えたジョルノが立っていた。あの背の高い花々の所為で見えなかった姿はやはり美しく、言葉に詰まる。完璧な微笑みが浮かべられていた。木の影の中にいる自分と、太陽の光の内に立つそいつの間には確たる何かが存在していた。華奢な体の後ろに聳え立つ向日葵がぼやけて、一個体のように見えた。それは酷くあやふやだったが、恐ろしいほどの存在を示している。ミスタ、と名を呼ぶその唇を眺める。
「ぼくをずっと見ていてくださいね。ずっと、ずっと」
「ああ、見てる」
「このぼくがあなただけに頼むんですから」
「ああ」
「お願いしますよ」
「ジョルノ」
「なんです?」
「ずっと近くにいて、見ていてやるから。すぐに泣いてんじゃねえよ」
今にも泣き出しそうな顔をした十五歳の少年の腕を引いて抱きしめる。その体に余るほどの憎しみを受けた命は全てを包むほどの優しい熱を持って、鼓動を打っていた。何より輝かしい生命が向日葵畑で崩れていく。自分よりもずっと細い肩を強く抱いた。震える肩を、抱いた。
向日葵を見に



 

 

 

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