ぜえぜえと、肩で息をしているこどもを見つめる。普段陽に晒していない肩やなんかがおかしいほど白く見えた。綺麗に焼けた胸元との対比のようだ。青白くすらあるそれに、こいつは本来は、肌が白いやつなのかとどうでもよいことにおもいを馳せる。長らく存在してきた無理な旅のツケだ。どこもかしこもギシギシと歪んで、そうして崩れ落ちてしまいそうだった。年の割に完成した体はそれでも昔の自分の視点で見ればひどいくらい頼りがない。少なくとも、こいつの志すものを考えれば情けなくすらある。ぜえぜえ、はあはあ。獣のような呼吸のおとばかりが部屋中に霧散していく。空気が揺らぐ。
「や、やめろ、もう、いイ…」
「おまえが言い出したんだろ」
なんとも情けない声を搾り出すリンをうしろから抱き、そうして性器を扱いてやると、そこは随分と嬉しそうなものだが、本人は先程からこの有様だ。今にも泣き出しそうな声音が不安定に揺れて、無理矢理に開かせた足を閉じる元気もないらしい。だらりと伸ばされた足からは力が抜け切り、足先が僅かに震えている。若い体はこれまでロクな欲の吐き出し方も知らなかったのか、与えてやれば顕著に反応を示した。それが恐ろしいのか、さきほどまで元気に生意気を言っていた口はすっかり喘ぎと許しを請うことしかしない。びくりと震える体と、止まってしまいそうなほど早い心音がおれまで興奮させる。もはや涎を垂らしたままでイイ様にされているリンの顎に手を沿え無理にこちらを向かせキスをする。なんでそうしたのかは分からない。好きだとかそんな馬鹿みたいなことを言うつもりも無いが、決して嫌いではなかった。アレを扱いてやるくらいだから、もしや相当気に入っているのだろうかと自分自身に問いかけるものの、残念ながら返事はありそうにない。
おれがリンにこんなことをしているのは、大した理由があってのことではない。ただふざけ合っていて、なんだか知らない内にベッドに雪崩込み、向こうを向いて座ったリンを後ろから抱き、わざと嫌がるようなことをしたくなった。それだけで、今こんなことをしている。思惑通りリンは嫌がっており、普段は見せぬような表情を晒して悶えている。舌を絡ませ音を立てるキスを拒むことさえなかった。そういえば、まだ十五なんだったか。快楽の渦に溺れまいと心だけは必死に抵抗をしてくるリンは時折やめろと言っておれを睨むが、それ以外は殆ど諦めているように見えた。だらだらと続けていたキスを終えるとその表情を眺める。潤んだ瞳の奥底が未だ屈していないのは、崇高なる血族故だろうか。人間でもないおれからすれば、どうだってよい話だ。
「イく時は言えよ、リン。おい、聞いてんのか」
「あっ…あ、こ、殺してやる…んんっ」
「なんつってんのかわかんねーよ」
生憎シン国の言葉はさっぱり分からないおれを睨みつけるリンはそれでも感じ続けているせいで、限界は近い筈だった。性に溢れた吐息がそこかしこを濡らして奪って去ってゆく。
「グリード、あっ、あ、」
「クソ…おまえもう自分でやれよ。おれも抜くから」
「うあ!あっ、ムリだよ、もウ」
だらりと伸びた足の先が反応するごとにリンもまた素直になっていく。あれだけ高潔なことを言ってくれるやつも本能の前ではこんなもんだと思うとたまらなかった。たった十五のガキだ。そんなガキ相手にこんなことをするのは多少なり大人気ないところもあるだろうが、たまに抜いてやらないと体の動きも悪くなる。不備はなるべく削るのが、戦争に於いてもっとも重要なことに違いなかった。おれがしているのはあくまで遊びの範囲内に違いないし、もっと言えば些細なガス抜きでしかない。特別な感情なんかはなにも持っていない。もう無理だと弱音をあげたリンの喉笛に噛み付けば命の味がした。柔らかな皮膚の下を想像しながら突き立てた牙はあっさりとそれを貫通し血を滴らせる。つうと伸びたものを舐めとると喘ぎ声が一際大きくなった。ぶるぶると震える声帯に背が粟立つ。
「あっあ、ああっあっ、いく、あっ、も、いっちゃウ、」
さっさとイっちまえ。そんな思いを込め、溢れた先走りを絡めながら扱いてやるとそれが相当良かったらしく、すぐに背を仰け反らして精を吐き出したリンは足をピンと張って余韻に身悶えている。呼吸を荒くしたままでそれを直そうともしないのはそれほど気持ちが良かったからか、それほど怒っているかのどっちかだろう。汗ばんだ額に張り付いた前髪を直してやると蕩けた視線を寄越したリンはどうやら前者であるらしい。ガキにしてはそれはもう見事な色気を放ち惚けているリンに再びキスをする。ああ、なんつーか。これはマズい。ろくでもない想像が犇めいている。
「はあ…あっ…クソ、こんナ…」
「良かっただろオウジサマ。ついでに、こっち向いておれの上に乗れ」
「…はア?」
「わかんねーヤツだな…突っ込ませろっつってんだよ」
おれの言葉が未だ把握できていないだろうリンの体を無理やり向かい合わせると、片手を腰に回し抱き、膝立ちにさせる。焦点の定まらない瞳がなんとかこちらを見ようと必死になっているさまが面白い。もう片方の手で自分の前を開けていると、やっと事態を把握したリンが抵抗を始めた。おれのものを見た瞬間の顔と言えば、それはもう凄まじかった。
「ばか野郎ッ!ムリだ、絶対ムリ!ケツ緩んじゃうヨ!」
「暴れんじゃねえ。気持ちよくしてやるから」
「やだ、あっ…!」
制止の言葉なんか端から聞くつもりもなく、精液と先走りで濡らした指をケツに押し付け、ジワジワと埋めていく。強ばったそこを解すようにしてじっくりと挿入していく。異物感が気持ち悪いのか、それを拒むように腰が逃げるが回した腕でそれを許さない。指一本入るのに何分も掛かるんだから、男ってめんどくせえ。こいつが勝手に濡れてくれれば楽なんだが、そうもいかない。こいつがそうならおれもそうだし、おれが女になるのなんか御免だ。そもそも男相手になにをしているのかと少し呆れないでもないが、その気になったものの吐き出し口がティッシュペーパーでは、折角体をもらった意味がない。こんなことをするために貰ったわけではないが、まあ大体はそんなところだった。萎えたものを扱いてやれば顔を逸らせて喘ぐ。ガキなんだからもっと素直に喜べばいいものを。
「あっ…ほんと、ムリ…、なあ、お願いだかラ…」
否定も肯定もしないまま、キツいそこを慣らし段々と首をもたげてきたそれを扱く。そんなことを言ってる暇があればお前も少しは緩めろよ、と内心舌打ちをしながら指を増やしていった。こいつが悪いわけじゃないが、誘ったのも嫌がらなかったのもこいつだ。今更やめろというのは虫が良すぎるってもんだろう。ぼろぼろと涙を流しておれの名を呼ぶガキの耳を柔らかく噛む。恋人にするように優しくこんなことをしてやる自分が不可解だった。なにも愛し合いたいわけじゃない。ただ穴があって、突っ込めればそれで良い。
(しかし、泣いている姿は初めて見たな)
恥ずかしいのか悔しいのか、顔を逸らして泣き顔を見せぬようにしているその姿は些かの罪悪感を与えてくる。なにも言わずにいるおれの名前を呼ぶそいつが、どうしようもない気持ちにさせた。今更ガキみたいに泣いてんじゃねえ。おまえはおれと対等でいろよ。
「なんでこんなこと、するんだヨ」
ぐずぐずと鼻を啜りながら真っ赤になった情けない泣き顔を見せるリンに、いやだからおれが言い出したんじゃねえと言おうとしたものの、どうしてか逸る心臓が煩わしくてなにも言えずにいる。指を二本から三本にする。大分解れたナカは淫猥な音を立ておれを受け入れる準備をしているし、おれだって今更やめるつもりもない。なんで、なんて。
「知るかよクソガキ」
言って唇に噛み付くと、リンはついに観念したように目を閉じた。最後の壁が崩落していく。気づいてしまった本心に気づかないフリをするおれもおまえも、どうしようもなかった。







「なあ、良かっただろ。ケツであんだけ感じてればもう女抱けねえな」
「おまえこそ随分ガキのお尻でイってくれたじゃないカ」
にやりと笑い振り向いたリンは風呂上がりの濡れた髪をタオルで拭きながらそう言った。「かわいくねーな」と舌打ちをすれば「それはどうも」と返される。おれたちはこれで良い。何にも気づかないふりをして、霧散した生を拾い集める。ベッドに腰掛けたリンの低い体温が心地よいなどとは、考えてはいけない。
 
 
 
グリリンと芽生え
 
 
 
 
 
 
 

 

 

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