唇をべろりと這っていった舌からもうもうと欲望の煙が溢れ出していた。シャワーを浴びていたら、突然押し入ってきたグリードは何を考えているのかわからない表情を浮かべながらおれを壁に押し付け、なにもかもがくっついてしまいそうなキスを繰り返す。おれももちろんそれに応じているし、それがきもちよくってたまらないけれど、いきなりどうしたんだろうとぼんやりと考えていた。グリードは不器用そうにみえて、結構キスとか、うまい。だからどうしても考え事はぼんやりと、あやふやなまま答えを導き出せずに終わることが多いのだけど、そうしていると怒る姿は、まあまあ可愛いんじゃないかとおもう。わかんない。おれがグリードのことを、かなり、相当、好きだからかもしれないな。
「ん、んっ」
呼吸のタイミングが合わず、互いにはあはあと呼吸をくりかえしているのはなんとも無様だった。止め忘れたシャワーをどうにかしようとシャワーコックに手を伸ばすけれど、それを絡め取られ、既にその気になっているグリードのモノへと促される。こういう、いやらしいことをしてくるのは、照れ屋なグリードにしては大変珍しい。いつもふたりでベッドに入って、おれがこっそりと誘ってようやくその気になるのに(いや、決して性欲が薄いというのじゃなくて、おれから誘わないと、とても行動に起こしてくれないからなんだけど)こんなふうに、待ちきれないと言わんばかりの様子なのは、初めてかもしれない。ジーンズの上からゆるく刺激を与えると眉間に皺をよせ押し付けられる。がっついておれにアレを触らせて、ねちっこいキスをして、いやらしく笑うグリードなんて、おれはもう大好きだなと思いながら、名残惜しそうにようやく離れたグリードが舌なめずりをしている姿を半ば放心した心地で眺める。ああ、服着たままだし、シャワーでびちゃびちゃだし、きもちわるくないのかな。上気した頬が欲情しているからなのか、はたまた熱い湯の所為なのかわからず、ただ、キスをやめたっきり、何もしてこないそいつを見つめる。シャワーがタイルを打つ音ばかりが響いていた。
「は、エッチ」
「うるせー」
「でも、うれしいナ」
にやける口元を隠すことも忘れて、首に腕を回す。そういえばお風呂でするのって、初めてだなあ。おればっかりが裸でいるのはなんだか気恥ずかしいから、グリードにも早いところ裸になってほしい。大体、服くらい脱いで入ってくればよかったのに、ああでも、それだけおれのことを求めてくれてるのか。それってなんだか、胸がソワソワするよ。ちゅっと軽いキスを繰り返しながら、器用に服を脱がせていく。おれなんかはだらしのない服を着ることが多いものだから脱ぎやすいんだけれど、グリードはどうしてこんなにジャストサイズの服しか着ないんだろう。おれが器用じゃなかったら、大変もどかしいことになってたんだから、感謝してもらいたいくらいだ。おれもグリードも顔を赤くしながらキスを繰り返して、身を寄せ合っている。距離も関係がないというほど抱きしめてそうして欲情している。おれとセックスしたいと考えているグリードに、抱かれたくって、どうにかなりそうだった。ようやく服を脱がせると、待っていましたとばかりに覆い被さってくるグリードを引き寄せる。キスしかしていないのに、もうきもちよくなってるおれをいつもは鼻で笑うそいつも、今では同じような顔をしている。うわあ、おれたちはなんだかとても、ふしだらなことをしているんじゃないか。これはとても、お天道様に顔を向けられないような、やましい行いなんじゃないか。
「あっ、座ろ、ねエ」
「いいから」
いいからって、なにが良いんだよ。それを聞く暇もなく、べろりと乳首を舐められて背が粟立った。あ、とか、んん、とか意識したって抑えられない鼻にかかった声がもれると、グリードはおれのそういうのが好きみたいだから、とても助かる。いつもはおれを見て興奮しているのを隠したくて難しい顔をしているのに、それを隠す余裕がないというのがなんだか嬉しくって鼓動が逸る。食べられるんじゃないかってくらいに唾液でぐちゃぐちゃになった乳首を舐められ、おれがそういうのをとても好きだということを知っているグリードは相変わらず息を荒くして、おれの痴態を見つめている。人間よりも、獣に近い顔つき。それが驚くほどセクシャルなもので、おれはもう腰がガクガクとして立っていられなかった。ずるずると座り込んだおれを見て、意地の悪い笑みを浮かべるそいつは尚も舐めて、噛んで、快楽の渦に突き落としてくる。おれたちに降り注ぐシャワーが同じだけ濡らしていく。
「うあ、ああ、」
「わりいな、ベッドまで、待つつもりだったんだけどよ」
「…?謝るなよ、おれ嬉しいヨ」
いやらしい顔をしているくせにそんなことを言ってきたグリードは、ほんとうはそんなことは言わずに、さっさと気持ちよくなりたいんだとおもう。いつもそうだ。グリードはおれを傷つけないように、変に求めたり、おれから言わないとしたくないんじゃないかって思っている節がある。なあ、そんなことは言わなくって良いんだぞ。そう言ってやりたいけれど、グリードはもうおれの言葉なんかあまり聞いていなくって、そうしておれの片足を掴むと大きく開かせた。湯気がでそうなほどあつい互いの体温に呼吸がままならない。窒息しそうだとおもった。
濡れた指をいきなり二本も入れられて、喉を反らす。自分とおなじかたちをした指が、関節のかたちまでよく分かる。おれの中でバラバラと動く指が、そのままおれの一部になってしまえたなら、おれの考えもなにもかも、わかってくれるのかなと思案に暮れて、でもそうなったらおれはグリードとセックスができないから、やっぱりこのままでいいかな、なんて。どうしたって仕様がないことを考えながら、三本目も受け入れる。苦しくないわけじゃないけれど、はやくグリードを受け止めたい気持ちの方が優っていた。不器用で優しくって、おれに心底惚れているおまえが、すっごい好きなのに、気づいてるかな。気づいてなかったら、仕方ないから教えてやるよ。頬や背を伝う湯にさえゾワゾワとする。流れ続けるシャワーは余計に理性を飛ばして。
「ひっ、あ、あ、いいよ、もォ」
「でもおまえ、まだ、」
「い、いから、たのむヨ」
ケツに指突っ込まれて、涙をぼろぼろと流して、こんだけお願いしているおれにこれ以上なにをしろっていうんだ。そんな意味をこめて睨みつけて、おずおずと指を抜かれる。それがまた気持ちよくて、ぎゅうと抱きしめながら仰け反った。すぐに押し付けられたアレにバカみたいに期待をして、はやく、と譫言のように呟けば頭を撫でられる。こども扱いは嫌いだけれど、グリードに頭を撫でられるのはそんなに嫌いじゃないから、許してやるよ。ぐっと圧迫感が体を突き抜ける。狭い肉壁を押し広げ入ってくるそれが苦しいのにたまらなく気持ちがよくて、慣らす間すら惜しかった。ほんとうにおなじになっちゃうほど強く抱きしめてキスをして、ケツぐっちゃぐちゃに揺らして、そんなセックスが好きだ。もちろんおまえとの、って前提で。
「はあ、あっはっ!い、てェ…!」
「だから、言ったろ、ションベンガキ、」
目をぎらぎらとさせているのに、そうしておれの中から出ていこうとするグリードを強く抱きしめる。出て行くなよ、もっとおれの一番近くにいろよ。
「なんだよ、おい、いてえんだろ?」
「いたく、なイ」
「う、そつけ」
「きもちい、よ、グリードなラ!」
「…なまいき、言ってんじゃねー」
そういうわりに、おれの中で質量を増したグリードが可愛くてにやりと笑っていると、きもちわりーヤツだなんて随分失礼なことを言われてしまった。そんなこと、ぜんぜん思っていやしないくせに。おれのことが可愛くてしかたないくせに、おれのこと気遣って、そんなことを言ってくれるおまえが、たまらない。グリードなら気持ちいいっていうのは、ほんとうのことなんだぞ。なあ、おれは、おまえならなんだって良いんだ。中々動かないグリードのものをきゅうと締め付けながら、ゆるゆると腰を動かしていくととても気持ちよさそうに目を細める顔が、おれのはずなのに可愛くて、愛しい。すると舌打ちをしたグリードが吹っ切れたようにガツガツと動き始めたものだから、痛くて涙が出そうだったところが次第に気持ちがよくなってくる。あっあっと短い喘ぎを繰り返して、呼吸を詰まらせながら腰を振る。あまりに近い距離のせいでおれのアレがグリードの腹に擦れる度に快楽が走る。きもちよくって呼吸ができなくって、でもキスがしたい。長いまつげをふせてはあはあと息をしているグリードの口に噛み付いて、舌を潜らせる。どこもかしこも溶けてしまいそうだった。それでもいい、と思えた。
「ん、んぅ、ふあ、」
「は…っ、あ、」
痛みなんかどこかに消え失せてしまった。とろけそうなほど気持ちがいいセックスのなかで窒息していく。シャワーがおれとグリードを同じだけ濡らしていって、そうして全てを流していった。(おまえと、誰よりも近くにいたい。そうなれるんなら、なんだってするのに、おまえはそうやって、おれを気遣うから)。目を細め、ちゅっと音を立てて離れた。
「すきダ。誰よりも、世界で一番、好きだよグリード」
ぐにゃりと歪めた笑顔をジッと見つめられると、自然とそんなようなことを言っていた。息すら感じられるほど近くで、おれとおまえは一つになっているんだと思うとたまらなく興奮する。にやりと笑ってキスをされ、それにまた感じ入る。律動は止まることなくおれを追い詰め続け、限界はもうすぐそこだった。イきたい。イかされたい。どうにかなってしまいたい。頭がおかしくなりそうな欲望が警報を鳴らす。強欲はどっちだ。
 
いまはただ、このままどこまでもずっとふたりでいたい。おれたちがこうしている間に、世界が滅びてくれたなら、それが一番のハッピーエンドだった。
 
 
グリリンとシャワールーム
 
 
 
 
 
 

 

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