おまえこういうの慣れてんの。驚くくらい淡々と口から飛び出た言葉はあっさりと部屋中に霧散するわけわからん青臭さに飲み込まれていった。ドア越しにタイルをシャワーが打つ音しか聞こえない。背に感じるジワと広がる温もりが気持ち悪かった。答える気がねーのかあるのか、今の今までおれのアレをケツに入れてヨがっていた奴は無反応だ。
「これもアレか、仕事のうちってやつかよ」
「……」
「連れねえな」
まあ良いけどな、お前の運命だって割り切っちまえばそういうのの相手してたって痛くも痒くもねえだろうし、お前だって楽しんでたもんな。大口開けて笑っていると、寄りかかっていたドアが派手な音を立てて崩壊した。まあ間抜けにも気を抜いていたおれはそのまま身を倒し、水浸しのタイルに頭を打ちつける。生憎痛くはない。それよりも、仰向けになって倒れたおれを覗き込むそいつが、あまりにも間抜けな顔をしてるから、何も言えなくなった。頭からシャワー被っちまってるせいで、それがただのぬるま湯なのか涙なのかさえも分からない。
「…おれのこと、だらしなくて狡いガキっておもってるのカ」
「そう思ってるように見えんのか」
「わからン」
「ハッ。おまえよりは、そう思っちゃいねーよ」
鋭く切れた瞳の奥が動揺を隠し切れていない。子供と言うには発達して、大人と言うには未熟な体。シャワールームの壊れかけたライトが怪しくゆらめいている。いつもは狐みたいに狡賢いくせに、少し揺さぶりをかければすぐにこうだ。これだから人間ってめんどくせーし、よわっちい。おれはこいつが今までどんな風に生き抜いて来たのか知らない。想像したくもない。窮屈な檻の中に閉じ込められていたくせに、時が来たならすぐさま運命を背負わされる。そんなのは御免だ。
「グリード」
「なんだよ」
「…おれは今までこんなこと、どうだってよかったんダ。気持ちいいふりして奉仕して適当にイって、それだけだったヨ。なのに、なんでこんなに苦しイ?皆を守りたかったんだ、それだけなんダ。嫌われたくなイ。嫌われたくなイ」
呆然としておれを見るそいつが何を考えているのか、手に取るように分かるのは、伊達に二世紀生きてねえってことかと大口開けて笑ってやりたくなった。自分のために泣けもしねえのかよ。つまんねーやつだな、リン。
「嫌いになんかなんねーよ」
むしろ好きだっていうのは、ただ言いそびれただけだと思いたい。誰よりもエグい傷痕を隠したお前が可哀想でバカバカしくて愛しいなんて、ふざけた話だ。

 

グリリンと嘘


 

 

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