胸の上を這う指の無骨な具合と言えばおれを虚しい心地にさせるばかりだった。紛れもなくそれは自分と同じ形を持った指であるのに、毎夜毎夜飽きもせずこんなことを繰り返している。自分には男色の気はないとおもっていたし(というより、未だにそんなつもりはないのだ)女の子が嫌いなわけではなかった。性欲だってどちらかと言えば薄いほうだとすら思っていた。あの禁欲的な環境下でそう考えないほうがよほどの地獄だったからかも知れないが、自分はまだ色や恋に疎い、少年期を抜けていない人間だと思っていたのだ。
先端をやわく爪で引っ掻くようにされると体が引きつった。こんなふうにされて反応するのも自分が女役である恥ずかしさを際立たせる。そう言えば、まだ女の子と寝たこともない。そう考えると恐ろしくないわけではないけれど、その思考を打ち消すようにキスをされるともう何も考えられない。しつこいくらいに舌を絡められ息をしようにも近すぎる距離がそれを許さない。
「んあっあっいや、ダ」
「うるせー」
返事なんだか単純な文句なんだか分からない言葉を呟いたグリードはとんでもなく悪い顔をしておれを見下ろしている。ギラギラと粘着質な光が輝いている。おれはと言えばそんな野獣のようなグリードの下でいいように無理な体勢を強いられ、きっと明日になればそこかしこが痛くてたまらないような具合になっている。浮かされた腰なんかもう、見ていられない。足を大きく開くのだって今はもう慣れてしまった。グリードは再びキスをして乳首を弄って、着実に煽ってくるけれど、そんなことをしなくてもおれのアレはガッチガチだし、なんかもう、バカみたいだった。おれも、グリードもだ。
こんなことをするようになったのは一月ほど前の朝が原因だ。どうしようもない朝の生理現象に未だ寝ぼけたまま手を伸ばし、適当に抜いていると見越したのかと疑うほどのタイミングで部屋に入ってきたグリードにそれを見られた。一瞬で覚めたおれとは裏腹にそのときのあいつの顔と言えばそれはもう、思い出すのも憚られるほどの厭らしさ。あっという間におれの体を組み敷いたグリードは口の端を裂けるんじゃないかってくらいに吊り上げて言った。「溜まってんなら手伝うぜ、相棒」。よくもまあそんなことが言える、だとか、まさかそんな、だとか、今考えればいくらでも言えるだろうがその時のおれはどうにも混乱していたらしく、ろくになんの反応もできないまま良い様にされ、なんの躊躇もなく行われた愛撫にあっという間に射精した。ひとから与えられる快楽がどんなに気持ちがいいか知らないでいたおれを嘲笑い、そうしてついにはケツにまで突っ込んできたグリードに促されるまま、今だって抵抗もせず、おかしな体勢を強いられている。冗談みたいな話だし、もしも冗談ならどんなに良かっただろう。一国の王を目指すこのおれが、人間ですらない男と夜な夜な繋がっているなんて!
がっつくわりにやけに長い愛撫と粘着質なキスは経験の無い体を溺れさせるには十分だった。口腔を犯されるように舌が這い、ただ溢れるばかりの互いの唾液が伝って首筋から胸に垂れていく。先ほどから触られているせいで痛いくらいに勃起した乳首を指が嬲る。あるわけがない胸をムリに揉まれるとカッと顔が赤くなるのが分かった。嫌だと言えないから首を振るのに、それすらも気にした様子がない。爪でグリグリと押しつぶしたのに優しく指の腹で撫でられるとすっかり元の通りになってしまう。先ほどから上半身のみを弄られ、下半身にはまるで触れられていないというのにすっかり勃起したアレが垂らす先走りが腰を持ち上げられているせいで下腹にまで及んでいた。見たくもないのについそれに視線を向けてしまうのもこいつの策略なのかとおもうと悔しいけれど、しかし正直な体は悦ぶほかの表現を知らない。くちのはしからバカみたいによだれを垂らし、乳首を弄られ喘いでいる。これが悪い冗談じゃなくてなんだって言うのか。ケツの割れ目に擦り付けられているグリードのアレがもう硬くて、おれのこんな姿見て興奮してんのかとか、そういうことが言いたいんじゃない。もっと根本的なことが、なにもかもおかしい。
「や、いやっ、んんっ」
「イヤじゃねーだろ、あ?」
おれがこう反応するほかにどうしようもないって知っているくせにそんなことを言うこの男はどれだけ意地が悪いのか。持ち前の目つきの悪さで睨みつけたって、目じりに涙を溜めていてはなんの意味もない。べろりとそれをすくっていく舌にすら感じていた。焦らされ過ぎてどうにかなってしまいそうだった。
「女みたいに濡らしやがって、よく言うぜ」
「あっあ、あぁ、も、そこ、いいかラ」
「気持ちいいんだろ?」
「いい、けどォ」
ハアハアと肩で息をして、もうムリだと腰を振る。触ってくれないならせめてどこかに擦り付けたかった。女みたいに、と言われたって気持ち良くなるばかりで、自尊心なんかとっくに粉々だ。誰のせいだよふざけんなよもうねちっこくしやがって、おかげでおれのはもう腹に付きそうなくらいになってんだよ。言いたいことを何一つ言えないままただ懇願するような視線を投げる。
「ね、さわって、んんったのむ、から、ほんト」
こんなことを言っても相変わらずなにもしてくれないグリードは本当に鬼だとおもう。おれがどうするか、楽しくてしょうがないんだ。新しいおもちゃを見つけた時のこどもと同じだ。クソ、クソ、殺してやる。涙がぼろぼろと溢れるのも喘ぎ声を抑えるのももうどうだってよくて、ただ熱を解放するためにアレに手を伸ばす。指先が触れただけで電気が走るくらい気持ちがよくて、自分で扱くのにもまるで抵抗がなかった。
「あっ!あっ、あぁっんっあっ」
「おまえ、エロいやつだなぁ」
「っるさイ」
おまえが、おまえが触ってくんないからおれが仕方なく!なんていえるわけがなく、もう碌に話すことすらできないまま先走りでヌルつくアレを必死になって扱いている。なんだよもうこんなのオナニーと変わんないじゃんって思っていると、ようやくその気になったのかべろと頬を舐められ、長い間乳首を弄っていた指が離れていった。そうして用意していたローションをこれでもかというほど手に取ると散々アレを擦り付けられていたケツに指が押し込まれた。それに驚いて扱いていた手を止めると、にやりと笑うグリードがおれを見る。
「どうした、続けろよ」
「でも、んあっ!」
「ケツが気になってそれどころじゃねーとか?おまえ、コッチ好きだもんなあ」
「あっあっちが、」
「ちがくねーだろ」
無遠慮に入ってくる人差し指と中指がバラバラに動き肉壁を押し広げるとそれだけで今までの比じゃないほどの快楽が襲う。こんなことを言うのはほんとうにどうかと思うけれど、確かにおれはナカをどうにかされるのが好きだ。たまらなく好きだ。乳首だってアレだって気持ち良いけれどできることならさっさといれてほしいし、いやほんとうにこういうのはおかしいけれど、おれはグリードとのセックスが好きだ。今更女の子とグリードどっちとしたいかって言われたなら、グリードのほうにいってしまうかも知れない。おれの体に教え込んだのがこいつだからってのもあるが、とにかく今おれはアレを扱くよりも早いとこ慣らして突っ込んでほしい。こんなことは当然言えない。
「ナカ好きだろ?好きだよなぁ?」
「すき、あっすき、だかラ!」
「なら休まず扱いてろよリン。おまえが必死にエロいことしてるときの顔が好きなんだよ」
「っヘンタイ!」
「そりゃどうも」
舌なめずりをしてそういったグリードに促されるまま再びアレを扱き始めると涙なんだか汗なんだかわからないものがぽたぽたと首筋に垂れていった。噎せ返るような性のにおいが部屋中に充満して、それが一層おれをおかしくしている。陰毛が生えていないせいで丸見えのそこを見られる恥ずかしさはあったが、どうせ今はこいつもそうだ。風変わりな告白だって今はただの興奮材料の一つでしかない。三本、四本と増えていく指を鮮明に感じながら腰を振っては扱く。体から湯気が出るんじゃないかってくらい暑くて、とても笑えないのになんだか笑いたかった。
するとまだ十分に慣らされていないはずのナカから指が抜かれていった。それにまた喘ぐと間髪入れずに今度はグリードのアレを擦り付けられ、ぬるぬるとしているせいでなんだか入りそうなのに入らない。意図的に入れないようにしているらしい。相変わらず呼吸も荒いまま、楽しげに、それでも少し余裕のなくなってきた笑みを浮かべるグリードを見上げる。
「はやくっ、はやくしろヨ」
「しょうがねえな…なにが欲しいか言えたらやるよ」
「へ、はア?あっ、この、ヘンタイ!最低ダ!」
「いらないんなら別にいいぜ」
入り口に擦り付けられたアレの感覚はおれのおかしくなりかけた頭に止めを刺していく。このオッサンほんと、こんないたいけな十五歳をかどわかしやがって、いつか殺してやる。グラグラと視界が揺れているような気さえ起こしながら、ちらりとアレを見る。…もう、どうにでもなれ。
「んっ、あぁっ!あっ!グリードのちんこ、ほしい、ナァ」
「よぉく言えました」
それはもう、すばらしく下卑た顔をしておれにキスをしたかと思うと、まだ狭いままのナカを押し広げ入ってくるそれにどうにも感じてしまい、情けなくもおれはもうイきそうだった。あっあっと小刻みに喘ぎながら揺さぶられるのに合わせて腰を振る。アレを扱いている余裕なんかもうなくて、口も閉じていられないくらい感じきっていると、垂れたよだれを舐められた。あ、なんかもう、ほんとうにマズい。
「ああっグリード、いくっ、おれっあっもう、いクッ」
「おい、おれはまだイかねーぞ。お前がイっても関係ねーよ」
「や、こまる、んんっ!」
「イきたくねーなら精々ちんこ握ってな」
なんて勝手な物言いだろうか。にやりと笑いまるで手加減する様子のないグリードは多分ほんとうにおれがイっても構わず腰を振るだろう。確か最初にした時にそれをやられて、半ば失神しながら喘いでいた記憶がある。イきたいけれど、イったら死ぬ。ちくしょうなんだよグリードのバカ野郎。感じすぎて痛いアレの根元をぎゅっと握り乱暴な快楽にたえる。でもそれがどうしようもなくきもちよくってもうどうだってよくて、なんとなく「グリード、すきダ」と呟けば一瞬驚いたような顔をしたそいつに気分が良くなる。頭を撫でられ、嬉しくなってしまうおれはなんて都合の良い奴だろうか。分かっているのにこの淫猥の渦から逃げ出せない。はやくはやく、グリードがイきますように。



グリリンと性交

 

 

 

 

 

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