あいつがいなくなってからというもの、おれだけのものになった体は実に軽かった。それこそ憑き物が取れたように肩こりも腰痛も無くなって、更には念願の賢者の石まで手に入れられて正に願ったり叶ったり。すばらしい功績輝かしい未来。近い将来おれが座るはずの玉座に腰掛けた皇帝は穏やかな笑みをもってしてこう言った。
「ところで、おまえの名はなんと言ったか」
ああ仮初の王よ!大声で笑い飛ばしたくなって、それから、ほんの少しだけ泣きそうになった。頭のどこかでおれをガキと呼ぶあのぶっきらぼうな声が聞こえる。
「リン・ヤオです。父上」
嘘をついたってなんとも思わないおれのことを、おまえは認めてくれたっけ。今更になって少しだけ好きだったかも知れないって、そう思った。


……………


あ・と言って丁度手が重なった。ドラマのようなことがあるもんだとも思うけれど生憎相手はグラマラスな姉ちゃんでも可愛らしい生娘でもない。なんとも嫌そうな顔をおれに向けているそのクソガキはそれでも手を離さない。なんと強欲。このおれが言うんだから、間違いはない。
「そんな食ってると、太るぞ」
「うるさイ、この人でなシ」
「まあおれはちょっとくらいむちっとしてた方が」
「ならガリガリに痩せてやル」
今にも喉奥に指を突っ込みそうなそいつは、今までのどこか信用ならない様子とはずいぶん異なり年相応の無邪気ささえ垣間見えた。たかがセックスの一回でなにが変わるよとは思いつつ、何故か頭を撫でてしまう自分がいる。



……………


そこは想像していたよりもなんともうるさいところだった。気がつけばおれの体はグリードとかいうホムンクルスに乗っ取られてしまい、おれといえばこんなわけのわからないところに一人で座っているしかない。眠くもなければ腹も減らない。これは慣れればある意味で便利かも知れないとすら考えていると、厭らしい笑みを浮かべたホムンクルスに声をかけられた。
「よう、おまえ、具合はどうだ」
「気安く話しかけるナ」
「かわいくねー」
「それはどうモ…って、おイ。どこ見てんダ」
「あ?いやアッチのほうはかわいいなお前」
「こっころしてやル!」


……………


ねちっこいキスを繰り返しながら愛撫をしていると変声期を終えたばかりのいびつな喘ぎが部屋中を濡らしていった。それはいままでのどんな時よりもどろどろとした欲望にまみれ、触れたところからどうにかなってしまいそうな罪悪に溶けていく。顔を真っ赤にさせて、お得意の作り笑顔すら消えうせたリンは今まで忘れていた年齢を思い出させるには十分だ。十五歳って、すげーな。十五年前に産まれたってことだろ?その気になりゃなにしてたか思い出せそうだ。ツンと尖った乳首を弄りながらもそんなことを考える。十五歳のわりにはなんとも厭らしく鳴くもんだと半ば感心すらしていた。前後不覚に陥った少年の未熟な体を無遠慮に責め立てながら、すっかり反応をしている自分が情けない。リン、リン。名前を呼んで抱けば、同じであるはずの体が小さくおもえた。


……………


「好きだ、グリード」
いつもと変わらない胡散臭い作り笑顔を浮かべたリンは、そう言ってから少しだけ苦笑した。今までに見たことが無い種類の笑顔はなんとも違和感を孕み、それをいつまでも燻らせている。何も言わなかったし、何も言えなかった。
「…ウソだヨ」
なんだってそんなに悲しそうな顔をしてるんだと聞けないまま、間を強い風が吹いていった。もう戻れない。



グリリンと短いはなし
 

 

 

 

 

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